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家に智絵里軍団

シンデレラガールズと雑談のパッチワーク(主にプロレス・自転車談義)

フローズン・ローズ

ひゅう、という鋭い音を立てて、凍えるような北風が吹き抜けていく。

「はっくしゅん!」

風に対抗するかのように祐巳はくしゃみをした。
洟をすすりながら、背中を丸め身を縮こまらせて寒さに耐える。
コートの下にカーディガンを重ね着して手袋をはめてマフラーまで巻いているのに。それだけ備えても冬の風が体の中まで染み込んでくるような気がする。こうやって中庭を通って薔薇の館にたどり着くまでの短い道のりが、氷原を横断する決死行のように思えてしまう。
それほど今日の寒さは厳しい。

「うぅ~なんでこんなに寒いの?」

恨み言を白い息にのせて外界に吐き出す。と、

「それは今が冬だからですわ」

突然、背後から発せられた声が祐巳の疑問に答えた。

「ああ、瞳子ちゃん……」
祐巳さま、くしゃみをするときは口に手を当てて下さい」
「見てたんだ……そうだね、うん。これから気をつける」

祐巳は今更ながら口に手を当て頷いてみせた。
瞳子ちゃんは、こういう『しつけ』にはけっこううるさいのだ。

「それから……もっとしゃんとして下さいませ!いくら寒いからといって、紅薔薇のつぼみがそんな猫背では他の生徒に示しがつかないとは思われませんか?」
「でもでも、寒いときに身体の表面積を少なくしようとするのは生物のほ……」
「いいわけ無用ですわ!瞳子をご覧ください!」

そう言われて祐巳は、改めて瞳子ちゃんの姿を眺めた。
確かに瞳子ちゃんは、この冷風吹き荒ぶ中でもピンと背筋を伸ばして見事に美しい姿勢を保っている。さすがにコートと手袋とマフラーの三点セットは装備しているけれど。

瞳子ちゃんは寒くないの?」
「寒くないわけではありませんけど、これくらいなら我慢できますわ」

ふふん、といった感じで胸を張って答える瞳子ちゃん。
そんな姿を見て、祐巳の悪戯心が目を覚ました。

「とか何とか言って、ホントはコートの下にカイロでも忍ばせてるんじゃないのぉ~?」
「そんな卑怯な真似をする瞳子ではありません」

 最初は済ました顔で冷静に対応していた瞳子ちゃんだったが……

「ホントにぃ?」
「ほ、本当です!」
「ホントにホントぉ?」
「本当です!カイロなんて持ってません!『心頭滅却すれば氷もまた温し』ですわ!」

あっという間に祐巳の術中にはまり、ムキになって言葉を返し始めた。

「ふ~ん、あくまでそう言い張るのね……」
「な、何ですの?その意味あり気な視線は?」

 祐巳の目つきが急に妖しくなったのを見て、瞳子ちゃんが一歩二歩と後ずさる。

「そこまで言うのであれば……」
「い、言うのであれば?」
「脱いでもらいましょう!」
「はあっ?」

 祐巳の爆弾発言炸裂に、瞳子ちゃん盛大にのけぞった。

「コートを脱いでカイロを持っていないという証拠を見せてもらいましょうか!」
「そ、それだけのためにこの寒空の下でコートを脱げとおっしゃるのですか?」
「ん~……確かにそれは可哀相かも。じゃあ薔薇の館に入ってからで良いわ。 どうせ部屋の中ではコート脱ぐんだし」
「それなら、まあ、かまいませんけど……」
「よし。じゃあ早く薔薇の館に行こう!こんなところで立ち話してたら真剣に凍死できるよ」

そう言って歩き始めた祐巳だったが……

「あれ、どうしたの瞳子ちゃん?」

瞳子ちゃんはその場から動こうとしなかった。
じっと自分の靴に視線を落として立ちすくんでいる。

「と、瞳子ちゃん?」

まさか、足元が凍りつき始めたの!?なんて祐巳が大真面目に心配しはじめたそのとき……
瞳子ちゃんがポツリとつぶやいた。

瞳子って……そんなに信用ないんですの?」
「え?」

信用がない…?
思いがけない言葉に祐巳は絶句した。
そんな祐巳を、瞳子ちゃんは拗ねたような目で見上げながら続ける。

瞳子が『持っていない』というだけでは祐巳さまは信じてくださらない。それはつまり、瞳子祐巳さまに信用されていないということですわ」

そう言ったきり瞳子ちゃんはまたうつむいてしまった。

瞳子ちゃん…」

 祐巳は自分の迂闊さを呪った。
ちょっとからかうだけのつもりが、瞳子ちゃんを傷つける結果になってしまったらしい……
こういう場合どうしたら良いのだろう?
もちろん祐巳瞳子ちゃんを信用している。それどころか、 今や『信頼している』と言っても過言ではないかもしれない。
さて問題は……
どうすればそれを今この場で瞳子ちゃんに納得してもらえるか、だ。
 祐巳は寒さも忘れてしばらく思案した。
そして、

「あのね、瞳子ちゃん……」

 自分でも話の着地点が見えないままに、ゆっくりと口を開いた。

「わたし、瞳子ちゃんのためにクリスマス・プレゼント用意してるの。本番は明後日だから今はまだ渡せないけど……あ、こんなこと言うのは別にモノでご機嫌とろうってわけじゃなくて、その……え~っと……プレゼントってさ、嫌いな人とか気の合わない人とかには普通あげないよね……もちろん、信用していない人にプレゼントあげる人なんて絶対いないと思うの……だから、 つまり、その……わたしは瞳子ちゃんにプレゼントを用意した。プレゼントは好きな人や信頼してる 人にあげるもの。ゆえに、わたしは瞳子ちゃんが好きだし瞳子ちゃんのことを信頼してる……って 事にならないかなぁ?
あ、それからそれから……さっきのカイロ云々はちょっと瞳子ちゃんをからかいたかっただけなの。でもちょっと度を越してしまったみたいで、ごめんね。それで、その……謝っておいて言うのも なんだけど……そういうことって信頼しあってる同士でないと出来ないことだと思うの。 だから……わたしが瞳子ちゃんをからかったこと自体が、瞳子ちゃんを信頼している証拠 に……ならないかな?」

語り終えた祐巳は、今だうつむいたままの瞳子ちゃんを見つめる。と、

「他には……」

瞳子ちゃんが、わずかに顔を上げて言った。

「え?」
「他には誰にあげるんですの?プレゼント」
「えっと、お姉さまや由乃さんたちみんなにあげるけど……でも本命は瞳子ちゃんとお姉さまへのプレゼントだけだから!あ、でもだからといって由乃さんたちを信頼していないという意味じゃなくて、その……由乃さんも志摩子さんも令さまも乃梨子ちゃんも可南子ちゃんもみんな好きだけど、 お姉さまと瞳子ちゃんはもっと好きっていうか……でもでもそれじゃ他のみんなと瞳子ちゃんたちを 比べたらみんなのことは嫌いってことになっちゃったりするのかな……でもでも!……」
「わかりました。もういいですわ」

瞳子ちゃんは、どんどん核心からズレていく自家中毒的な祐巳の話をさえぎった。

祐巳さまが瞳子のことを信頼してくださっている、ということはよくわかりました」
「ホントに?」
「ええ、本当です。祐巳さまの言葉を……信用します」
「よかったぁ~!」

祐巳は安堵の白いため息を吐いた。
と同時に寒さを感知する感覚が戻ってくる。
そして……
ひゅう、と鋭い音を立てて、凍えるような北風が二人の間を吹き抜けていく。

「はっくしゅん!」
「はっくしゅん!」

 風に対抗するかのように祐巳瞳子ちゃんはくしゃみをした。

瞳子ちゃん、口に手を当てないと」
祐巳さまもです」
「ん~、今度から気をつけよう」
「そうですわね」
「さて、凍え死なないうちに薔薇の館に避難しよう。瞳子ちゃんにプレゼント渡すまでは死んでも死にきれないからね」
「もし今亡くなられても、形見分けでいただきますからご安心を」
「うわっ!瞳子ちゃん黒い!」
「さっきからかわれたお返しですわ」
「キツイなぁ瞳子ちゃんは」
「……あの、祐巳さま」
「なになに?」
「……プレゼント、楽しみにしていますわ」
「うん、期待して良いよ」

 

そうして二人は薔薇の館へと歩き始めた。
手は繋がなかった。繋ぐ必要はなかった。
今の二人の間には……
例え吹雪の中でも姿を見失わないようにお互いを強く結びつける『信頼の絆』があるのだから。

 

 

<おわり>

(初うp→03/12/23)

………………

P「本日、5月5日は奇しくも水瀬伊織さんの誕生日」
文「…奇しくも?」
神「ああ、アニメ版の中の人か」

P「内容については、何もおっしゃらなくて結構ですので諸姉」

橘「上手い下手は置いておいて、確かに普通の話でした」
杏「オチがクサい。いや、全体的にクサい」
文「…いわゆる若書きでしょうか」
杏「あと、地の文でキャラに『ちゃん』付けなのが気持ち悪い」

P「何もおっしゃらなくて良いと言ったんですがね……当時はこういうのが流行ってたんです。作品そのものもこのあと一大勢力になりますし、その中でこのカプは隆盛を極めましたし」

菜「当時というと、いつごろですか」
P「あまり言いたくないんですが……今から10ン年前、です」
比「それこそアイマスが生まれる前のことっスね」
杏「菜々さんが、えっと~」
菜「じゅ、17歳のころですね!はいおしまい!」

P「地の文で『ちゃん』付けなのは、敢えてです」
杏「そうか。便利な言葉だね、『敢えて』」